花街の華やかさと表裏一体となった悲惨な下層社会。そこで生を受けた兄妹の過酷な境遇こそが、上弦の陸という悲劇的な鬼を誕生させた原点だ。遊郭の最下層「羅生門河岸」で生まれた妓夫太郎は、醜い容姿と貧困ゆえに周囲から疎まれ、暴力を受けながら育った。その暗闇の中に差した唯一の希望が、美しき妹・梅(のちの堕姫)の存在だった。
しかし、残酷な運命は容赦なく二人を叩きのめす。客の武士の目を簪で突いた梅は生きたまま焼き殺され、絶望の淵に立たされた妓夫太郎の前に現れたのが童磨であった。鬼となり、人間の世に復讐を誓った二人の絆は、醜悪にしてどこまでも純粋だ。鬼殺隊に敗れ、地獄への道を歩む間際で見せた兄妹の醜い罵り合いと、その直後に溢れ出た本音の涙。あれほど観客の胸を締め付けた場面が他にあるだろうか。