かつて日本のベーカリー市場を席巻したリッチ系食パンや総菜パン人気から一転、パン好きたちの熱い視線は「リーン(余計な副材料を含まない)」なハード系パンへと回帰しています。その背景には、食のナチュラル志向と、日常的にワインや本格料理を自宅で楽しむライフスタイルの定着があります。
バターや砂糖をたっぷり使ったパンは一口目のインパクトが大きい反面、毎日の食事に合わせるには重く感じられることも少なくありません。一方、ハード系パンは油脂や糖分がほぼゼロ、あるいは極めて少量で作られるため、「噛むほどに広がる小麦の甘み」をダイレクトに堪能できます。さらに、長時間の低温発酵によって引き出されるアミノ酸由来の旨味や、発酵種特有の心地よい酸味が、肉料理やチーズ、スープといった食事の脂質を軽やかに受け止めてくれます。
職人の手仕事と自然発酵が織りなす「クラフト感」を五感で楽しむ贅沢。ハード系パンの台頭は、単なる一時的な流行ではなく、日本のパン文化が成熟した証拠と言えます。