酔芙蓉の最大の特徴であるドラマチックな色の変化は、単なる水分の蒸発や老化現象ではありません。植物生理学の研究において、花弁の細胞内で進行する「アントシアニン色素の急速な生合成」が直接の引き金であることが実証されています。
開花直前の早朝、花弁の細胞内には無色のフラボノイド成分が蓄えられており、可視光下では純白に見えます。ところが、花びらが開き朝の光(特に紫外線領域の光刺激)を浴び、日中の気温上昇(およそ25℃前後)が加わることで、細胞内の酵素群が一気に活性化します。この酵素反応によって赤色色素であるアントシアニンが短時間で合成され、花弁組織全体に蓄積していくのです。
実際に、低温環境(冷蔵庫など)に早朝の白い酔芙蓉を遮光保存すると、夕方になっても白いまま変色が進まないという実験データが存在します。つまり、酔芙蓉の「酔い」は、自然界の光と熱が織りなす精密な化学反応の結果に他なりません。午後2時を過ぎる頃にはほんのりとしたピンク色に染まり、日没を迎える頃には艶やかな紅色へと昇華。そして夜間には花を閉じ、そのまま翌朝には赤く萎れた姿となって役目を終えます。