ネット検索において「美空ひばり おまえに惚れた 紅白歌合戦」というキーワードが頻繁に見受けられます。「この大ヒット曲を当時の紅白歌合戦で堂々と歌ったのではないか」と記憶を重ね合わせるユーザーが少なくないためです。
しかし、音楽史の客観的事実を検証すると、美空ひばりは1980年の『NHK紅白歌合戦』には出場していません。ひばりは1972年(第23回)の出場を最後に、実弟の問題に端を発する紅白の選考方針などを巡り、NHKとの間に距離が生じました。1979年(第30回)に番組30回記念の特別企画枠として7年ぶりに出演を果たし『リンゴ追分』などを熱唱したものの、翌1980年の通常出場枠には名を連ねていません。
では、なぜ「紅白で歌った」という印象が人々の脳裏に焼き付いているのでしょうか。その理由は、当時の民放各局の大型歌謡特番(TBS『輝く!日本レコード大賞』、日本テレビ『日本歌謡大賞』など)や、自身の単独リサイタル特番で披露した圧巻のステージングが、あまりにも神々しく視聴者の記憶に刻まれたからです。歌番組の晴れ舞台で黒のタキシード風スーツや艶やかな着物を身にまとい、男の色気と気風の良さを全身から放ちながら『おまえに惚れた』を歌い上げる姿は、お茶の間に紅白以上の強烈なインパクトを残しました。