AEDが現場に到着した際、機械が「ショックは不要です」とアナウンスすることがあります。これは故障ではなく、自動体外式除細動器の適応波形を正しく判別した結果です。除細動が有効な波形と、無効な波形には明確な境界線が存在します。
ここで重要となるのが、心室細動と心室頻拍の違いです。心室細動(VF)は先述の通り心筋が無秩序に震える状態ですが、心室頻拍(VT:Ventricular Tachycardia)は心室が異常な高速拍動(毎分150〜250回程度)を起こす状態を指します。心室頻拍の中には脈拍が辛うじて触れる状態もありますが、拍動が速すぎて血液を押し出せず脈が触れない状態を「無脈性心室頻拍(pulseless VT)」と呼び、これはVFと同様に即座の除細動適応となります。
医学的に定義されている除細動が必要な心電図波形と、それ以外の心停止波形の比較データを以下にまとめました。
総務省消防庁が公表している救急・救助の現況データや日本循環器学会の報告によると、心停止からの救命率と最新データは時間との過酷な戦いを裏付けています。心室細動による心停止が発生した場合、電気ショックが1分遅れるごとに救命率は約7〜10%ずつ直線的に低下します。救急車の全国平均到着時間が約9分であることを考慮すると、救急隊が現場に到着してから除細動を行っても、生存率は極めて絶望的な数字にまで落ち込みます。
しかし、倒れた直後に居合わせた市民(バイスタンダー)が迅速に胸骨圧迫を開始し、数分以内にAEDによる除細動を実行できた場合、1か月後の社会復帰率は50%を超える水準に跳ね上がります。ショック非適応の波形に対してAEDが放電を拒否するのは安全設計の証であり、音声で「ショックは不要です。ただちに胸骨圧迫を開始してください」と指示が出た場合は、迷わず胸骨圧迫を再開することがプロトコル上の正解です。