料理の現場で長年ささやかれてきた「大根を生で凍らせてはいけない」という説は、半分正しく、半分は誤解に基づいています。結論から言えば、大根の冷凍は生のままで全く問題ありません。それどころか、加熱調理を前提とするのであれば、むしろ生のまま凍らせるほうが圧倒的なメリットを生み出します。
ネット上で「大根を冷凍したらスカスカになってまずい」と囁かれる背景には、大根の水分量があります。大根の重量の約95%は水分で構成されています。生の状態で冷凍庫に入れると、細胞内の水分が凍結して体積が膨張し、硬い植物細胞壁を内側から突き破ります。これを室温などで自然解凍してしまうと、破れた細胞壁から蓄えられていた水分や旨味成分が一気に「ドリップ」として流れ出し、繊維質だけが残ってスポンジのようなスカスカ状態になってしまうのです。
しかし、この「細胞壁が壊れる現象」こそが、煮物において奇跡的な効果を発揮します。通常、生の大根を煮込む際は、繊維が強固なため中心まで味を行き渡らせるのに30分以上の下茹でや長時間の煮込みが欠かせません。ところが一度冷凍して細胞壁が壊れた大根は、いわば無数の微細なスポンジの隙間が空いた状態になります。そこに温かい煮汁が触れると、浸透圧の作用によって毛細管現象のように出汁が一気に中心部へと吸い込まれます。これが、下茹で不要で味が爆速で染み込む決定的な理由です。