大通り沿いの名所をなぞるだけでは、この街の本質には届かない。地元住民への聞き込み調査で明らかになったのは、観光客の波から一歩離れた高台の古寺に広がる、知られざる多島美のパノラマビューだ。夕暮れ時、瀬戸内海が茜色から深い群青へとグラデーションを描く瞬間、波止場に灯る街灯と行き交う小舟が織りなす光景は息をのむほど美しい。
食の現場にも、旅人を唸らせる本物の味わいが潜んでいる。観光客が集中するメインストリートの裏手、地元の漁師たちが通う小さな食堂の暖簾をくぐる。そこで提供されるのは、朝獲れの小魚「ネブト」の唐揚げや、水揚げされたばかりの鯛の身を贅沢に使った鯛茶漬けだ。骨から取った濃厚な出汁を注いだ瞬間、香ばしい胡麻の香りと魚の甘みが鼻腔をくすぐる。
町家の古民家を再生した隠れ家的なカフェでは、瀬戸内レモンをふんだんに使った焼き菓子と、地元焙煎士による深煎り珈琲が提供されている。古い梁や柱の質感を残しながら、現代の洗練されたデザインを融合させた空間。喧騒を忘れ、潮騒に耳を傾けながら過ごす午後は、旅の記憶に鮮烈な余韻を残す。