Webメディアや動画コンテンツでは、「アドレナリン全開で集中する」「アドレナリン中毒で仕事がはかどる」といったフレーズが好んで使われます。しかし、神経科学の視点から言えば、これは決定的な誤解を含んでいます。
デスクワークや試験勉強でゾーンに入り、高い集中力と論理的思考を保っているときに脳内で高まっているのは、アドレナリンではなく「ノルアドレナリンとドーパミンの適度な協調」です。アドレナリンは血液脳関門(BBB)を容易には通過できないため、副腎髄質から分泌されたアドレナリンが直接脳の中枢神経受容体を刺激して思考を深めることは基本的にありません。
むしろ、血中アドレナリン濃度が高すぎると、心拍数の乱高下や震え、視野狭窄(トンネルビジョン)が起こり、複雑な知的作業のパフォーマンスは急激に低下します。アドレナリンが適しているのは「短距離走で全力疾走する」「重い障害物を力任せに押しのける」といった、生体力学的な瞬発力が要求される局面のみです。
さらに、これら興奮性物質が暴走しないよう見張り役を務めるのがセロトニンです。ドーパミン(快楽・報酬)、ノルアドレナリン(不安・覚醒)の2大神経伝達物質に対し、セロトニンは「第3の調整役」として過剰な興奮を抑え、精神の平穏と感情の恒常性を保ちます。セロトニンが枯渇した状態でストレスに直面すると、ブレーキの壊れた車のようにノルアドレナリンとアドレナリンが乱れ打ちされ、感情のコントロールが完全に失われます。