日本国内のインターネット検索において、「ダイナー」という言葉からサスペンスやダークな世界観を想起するユーザーが少なくありません。これは、作家・平山夢明による小説『ダイナー』(2009年刊行、第28回日本冒険小説協会大賞受賞)および、それを原作として2019年に公開された映画『ダイナー』のあらすじ(蜷川実花監督、藤原竜也主演)の強烈なインパクトに起因しています。
作品内では「元殺し屋の天才シェフ・ボンベロが支配する、凶悪な殺し屋専用の会員制ダイナー」という極限のクローズド・サークルが描かれ、血生臭いアクションと芸術的な狂気の料理が展開されます。しかし、社会文化的な事実として捉えるならば、これはあくまでフィクションが創り上げた魅惑的な舞台装置です。
現実のダイナーは、閉ざされた裏社会の社交場とは正反対に位置する、「アメリカで最も敷居が低く、誰に対しても開かれた大衆食堂」です。映画に見られるカウンター越しの一対一の緊迫感やダイナミックな厨房風景といったビジュアル要素は、本物のダイナーが持つ「厨房と客席の距離の近さ」という構造的特徴を巧みにエンターテインメントへと昇華させたものといえます。