深部静脈血栓症(DVT)の看護において最大の使命は、下肢に生じた血栓が血流に乗って肺動脈を閉塞させる「肺血栓塞栓症(PTE)」の発症を水際で食い止めることです。両者を包括した静脈血栓塞栓症(VTE)は、院内発症の予期せぬ突然死において極めて高い比率を占めています。血流の停滞、血管内皮の障害、血液凝固能の亢進という「ウィルヒョウの三徴(Virchow's triad)」が揃いやすい術後患者や長期臥床患者の体内では、自覚症状がないまま静かに血栓が成長している危険性を常に想定しなければなりません。
医療従事者向け情報プラットフォーム「看護roo!」の臨床解説でも指摘されている通り、DVTを発症した患者では急激な下肢の腫脹と疼痛が出現し、疼痛コントロールと安静度管理が極めて重要な意味を持ちます。しかし、臨床現場で直面する最大の壁は「発症初期の約50%が無症状である」という冷厳な事実です。典型的な有症状例では、以下の徴候が段階的に現れます。
初期に感知される変化は、患側下肢の違和感や「つっぱり感」、歩行時や足関節を動かした際の軽微な自発痛です。血栓によって主幹静脈が閉塞すると静脈圧が急上昇し、毛細血管から組織間隙へと水分が漏出することで急激な浮腫と把握痛(筋肉をつかまれたような痛み)が生じます。さらに静脈還流が滞ることで表在静脈が代償的に拡張し、怒張した血管が網目状に浮き出る「側副血行路の発達」や、患部の局所熱感、皮膚が赤紫色を帯びる色調変化(チアノーゼ様変化)が観察されます。
最も警戒すべきは、離床や排泄動作などの体動に伴って血栓が遊脱する瞬間です。患者が突然の「呼吸困難」「胸痛」「チアノーゼ」「冷汗」「急激な血圧低下や頻脈」を訴えた場合、すでに広範な肺動脈閉塞が起きている可能性が高く、一刻を争う救急コールと蘇生措置が要求されます。呼吸苦の訴えを単なる術後の疲労や過換気と片付けず、直前の下肢症状の有無と照らし合わせる危機察知能力が看護師には問われています。