「右回りがプラスなのか、それとも反時計回りがプラスなのか」——曲げモーメントの初学者から最も多く寄せられるこの疑問こそ、つまずきの根本原因です。実は、力学の計算では「剛体の回転を表すモーメント」と「部材内部に生じる内力としての曲げモーメント」で、符号の定義が根本から異なります。
支点反力を求める際に使う「つり合い式($\Sigma M = 0$)」では、特定の点を中心として時計回りをプラス(またはマイナス)と作業者が自由に決めて構いません。これは物体全体が回転しない条件を調べるための「数学的な便宜上のルール」だからです。
一方で、部材の断面に作用する曲げモーメント($M$)の符号は、回転方向ではなく「梁がどのように変形するか」で物理的に定義されます。標準的な構造力学および材料力学において、最も広く採用されているのが「下側引張(梁がU字型にたわむ変形)を正(プラス)とする」規約です。梁の上に人が乗って中央が沈み込むとき、部材の下側繊維は引き伸ばされ、上側繊維は縮みます。この「笑顔(スマイル)のような変形」を生じさせるモーメントをプラスと固定して考えるのが、曲げモーメント符号の決め方の揺るぎない鉄則です。
切断法を用いて梁の左側を取り出した場合、下側を引っ張るためには右端の切断面に「反時計回り」の曲げモーメントを仮定しなければなりません。逆に梁の右側を取り出した場合は、左端の切断面に「時計回り」のモーメントを仮定する必要があります。この「取り出す向きによって矢印の回転方向が逆転する現象」を理屈抜きで覚えようとするため、頭の中で符号がショートしてしまうのです。矢印の回転ではなく、「下側の繊維を引っ張る向きに矢印を描く」という一点だけを頭に叩き込んでおけば、左右どちらの断面を扱っても符号を誤る心配はなくなります。