「高校に入学してすぐ青チャートを買わされたが、第1章の二次関数で挫折して本棚の飾りになった」「武田塾のルートを真似て始めたものの、途中で解法が頭に入らなくなり自己嫌悪に陥った」――。受験相談の現場やSNS上では、毎年このような切実な声が数千件規模で投稿されています。
大手予備校の数学科講師は、現場の取材に対して次のように警鐘を鳴らします。「多くの受験生は『評判が良いから』という理由だけで、1冊あたり1,000問前後が収録された極厚の網羅系参考書にいきなり手を出します。しかし、自力で解法を組み立てる基礎体力が不足している段階でこれを始めると、答えを眺めて分かった気になり、模試で一切ペンが動かないという典型的な失敗に直面します」。
この現象は、教育心理学でいう「流暢性の錯覚(Illusion of Explanatory Depth)」で説明がつきます。解説を読んで理解した感覚と、自力で未知の問題にその解法をアウトプットできる能力はまったく別物です。解説が充実している分厚い参考書ほど、読んだだけで「できたつもり」になりやすく、いざ白紙の答案に向き合った際に認知の崩壊を起こして意欲を失ってしまいます。
さらに、1冊を終えるまでに半年以上かかるような過密スケジュールは、エビングハウスの忘却曲線の観点からも致命的です。前半の単元を終えた頃には最初の基礎が完全に抜け落ちており、これが数学参考書で挫折する理由の第1位となっています。独学で突き進むなら、まずは「薄い参考書を短期間で完璧にする」成功体験の積み重ねが欠かせません。