整形外科のリハビリテーション室や治療現場には、連日のように「結帯動作ができない」という悲痛な訴えが寄せられます。SNSや質問コミュニティを調査しても、「背中の痒いところに手が届かなくなった」「トイレで下着を上げるときに激痛が走り、脂汗が出た」といった切実な声が数多く散見されます。
臨床の最前線で多くの理学療法士が直面するのは、「巻き肩なのに、なぜ内旋運動ができないのか」という一見矛盾した人体のパラドックスです。
PC作業やスマートフォン操作が日常化した現代人は、肩甲骨が外転・前傾し、上腕骨が内側に捻じれた「巻き肩姿勢」のまま何時間も固定されています。この状態が慢性化すると、胸の前側にある小胸筋や肩甲下筋が短縮位で固まり、逆に背中側の筋肉は引き伸ばされて血流が途絶えます。
では、すでに内旋しているのだから後ろにも簡単に手が回るかといえば、現実は正反対です。巻き肩によって肩甲骨のニュートラルポジションが崩れると、上腕骨頭を受け止める関節窩が下を向き、関節の適合性が破壊されます。その崩れたアライメントのまま腕を背中へ回そうとすると、関節の後下方が詰まり、前方の靭帯に過剰な摩擦が生じるのです。
さらに四十肩・五十肩(肩関節周囲炎)が発症すると、病態は一層深刻化します。炎症期を経て「拘縮期(凍結肩:フローズンショルダー)」へと移行する段階で、関節を包む関節包全体がコラーゲン線維の異常増殖によって分厚く硬縮し、容積が健康時の3分の1程度にまで減少します。臨床報告によると、凍結肩において最後まで回復が遅れ、患者の生活の質(QOL)を最も損なうのが、この結帯動作を伴う内旋拘縮です。「もう二度とエプロンを結べないのではないか」と絶望感を抱く患者が多い現場のリアルが、この疾患の根深さを物語っています。