国土交通省の建築基準法や公的な確認申請書類において、寸法はすべてミリメートル表記が義務付けられています。それにもかかわらず、大手ハウスメーカーや工務店の現場では、図面のグリッドに「910mm」という中途半端に見える数値が並び続けます。この数値の正体こそ、3尺(半間=約909.1mm)を四捨五入した数値です。
現場の大工や設計士への聞き取り調査によると、建築寸法の根底に尺貫法が残り続ける理由は単なる伝統墨守ではなく、極めて合理的な施工効率とコスト削減にあります。
「ホームセンターや建材屋で仕入れる石膏ボードや合板の基本サイズは、今でも『サブロク板(3尺×6尺=約910mm×1820mm)』です。柱の間隔を910mmで組んでおけば、仕入れた合板を現場で一切切断することなく、そのまま釘で留められます。これを1,000mmのメーターモジュールに変更すると、現場ですべての板を切り落とす手間が生じ、大量の産業廃棄物と施工コストの増加を招きます」(都内工務店・一級建築士)
木造軸組工法において、日本の住宅は「柱と柱の間=6尺(1間=1820mm)」「その中間に入る間柱の間隔=1尺5寸(455mm)」というグリッドで完全にシステム化されています。大工が使う差し金(指矩)の目盛りに従えば、複雑な三角関数を使わずとも直角や勾配(屋根の傾斜)が一瞬で算出できる仕組みが数百年をかけて完成しているため、現場から尺の感覚を排除することは物理的にも経済的にも極めて困難です。