転職者が最も困惑する事象のひとつが、「転職後住民税が初任給で引かれない理由」である。結論から述べると、入社初月の給料日時点で住民税が天引きされないのは、事務的な不備や会社のミスではなく、地方自治体と企業間の情報伝達に生じる物理的なタイムラグが主因である。
住民税の給与天引き(特別徴収)を実施するには、転職先の企業が管轄の市区町村に対して「この社員を採用したので、住民税の納入書を送ってほしい」という旨の届出を行わなければならない。自治体側もその届出を受理した後、対象者の前年所得情報と照合し、「月々の天引き額(特別徴収税額)」を決定して企業へ通知書を送り返す。この一連の行政プロセスには概ね2週間から1ヶ月半程度の日数を要する。
たとえば4月1日に入社した場合、人事労務担当者が4月上旬に自治体へ手続きを行っても、自治体から税額通知が会社へ届くのは5月中旬から下旬になる。その結果、入社当月である4月支給(当月払い)はもちろん、翌月5月支給の給与計算締め日に間に合わず、住民税給与天引き再開のタイミングは「6月支給分」や「7月支給分」へとずれ込むのが通例だ。
この空白期間中、本来引かれるはずだった住民税(月額2万〜4万円前後)が引かれないため、額面に対する手取り額が一時的に数万円多く錯覚される。この「一時的な手取りバブル」を昇給や転職による純増と誤認し、支出水準を上げてしまうと、天引きが再開された際や後述する普通徴収の請求が届いた際に深刻な資金ショートを引き起こす。