「なぜ国会図書館の貴重な本が、一円も払わずに自宅で読めるのか?」――ネット上でもしばしば疑問が寄せられるこの料金無料の真相には、日本の法制度における歴史的な大転換が深く関わっています。
発端となったのは、2021年の著作権法第31条の一部改正です。それまで、国立国会図書館がデジタル化した資料のうち、絶版等で入手が困難な文献を閲覧できる窓口は、同館の承認を受けた全国の公共図書館や大学図書館の専用端末(図書館向けデジタル化資料送信サービス)に限定されていました。利用者はわざわざ指定の図書館へ足を運び、職員の立ち会いのもとで画面を確認する必要があったのです。
しかし、コロナ禍を契機としたデジタルアクセス需要の急増や、地方在住者における情報アクセスの格差是正を求める声の高まりを受け、国会は法改正に踏み切りました。権利者の利益を不当に害さないセーフガードを講じることを条件に、2022年5月から個人端末への直接送信が合法化されたのです。
国立国会図書館の公式発表資料によると、送信対象となるのは「市場で容易に入手できない絶版等の資料」に厳格に絞り込まれています。現在も新刊書店や電子書籍ストアで流通している商業ベースの出版物は対象外とすることで、出版産業の経済的循環を破壊しないバランスが保たれています。国民の文化的権利と学術振興を目的とした国の公共投資によってデジタル基盤が構築されているため、個々の読書体験に対して閲覧利用料が課されることはありません。
2026年最新の経緯を振り返ると、デジタル化作業は官民連携のもとで計画的に進行しており、明治・大正期の刊行物はもとより、平成初期に出版されてすでに絶版となった専門書や地方出版誌、学術論文、官公庁資料に至るまで、カバー範囲は年々着実に拡大しています。