白内障を患う犬の多くは8歳以上のシニア期に差し掛かっており、飼い主の決断を鈍らせる最大の要因は麻酔事故と手術失敗への恐怖です。動物眼科専門医の臨床統計によると、未熟白内障の段階で手術を実施した場合の視力回復成功率は約85%〜95%と極めて高水準を維持しています。しかし、過熟白内障まで放置された症例では、成功率が70%前後にまで急低下します。
手術が失敗に終わる、あるいは術後に重篤な問題を引き起こす典型的な経緯には、以下のような合併症が挙げられます。
代表的な術後合併症は、術後性高眼圧症(急性緑内障)と重度ぶどう膜炎、そして網膜剥離です。白内障が進行しすぎていると、水晶体の嚢(ふくろ)を破砕する際に炎症性物質が目の中に大量に漏れ出し、房水の排出口を塞いで眼圧が急上昇します。術後数日以内に眼圧コントロールが破綻すると、せっかく水晶体を取り除いても視神経が不可逆的なダメージを受け、完全失明に追い込まれるという悲劇が生じます。
さらに、手術そのものが成功しても、飼い主を待ち受けているのが過酷な術後ケアと継続的な維持費用です。手術後は激しい炎症と細菌感染を防ぐため、抗菌点眼薬、ステロイド点眼薬、非ステロイド性抗炎症点眼薬などを1日に4〜6回、時間を空けて厳密に点眼し続けなければなりません。術後1〜2ヶ月間は目を掻かせないためのエリザベスカラー着用が絶対条件となります。
犬の白内障手術後における合併症予防の点眼薬費用は、術後初期で月額10,000円〜20,000円、炎症が落ち着いた後も生涯にわたって抗炎症点眼を継続するケースが多く、月々4,000円〜8,000円程度のランニングコストが永続的に発生します。「手術費用を一回支払えば終わり」ではなく、術後の継続的な通院検査費と薬品代を長期的に負担し切れるかどうかが、真の覚悟として問われます。