『くるみ割り人形』の大きな魅力は、チャイコフスキーのバレエ音楽でも知られる童話の世界観を巧みに織り交ぜた、三浦徳子の文学的な歌詞にあります。少女から大人の女性へと移り変わる繊細な心の揺れ動き、届かない恋への切なさや孤独感が、絵画のような情景描写とともに紡ぎ出されています。
その詞世界を劇的に彩るのが、馬飼野康二による流麗なオーケストレーションです。イントロの静けさから一気にストリングスが押し寄せるドラマティックな展開、マイナーコードを基調としながらもサビに向けて一気に感情を解き放つメロディラインは、聴き手の心を強く揺さぶります。
石川ひとみはこの難度の高いメロディを、過度なビブラートに頼ることなく、透明感あふれるストレートな発声と繊細なファルセットで歌い上げました。少女の純真さと内に秘めた切実なパッションが見事に同居したボーカルワークは、昭和歌謡史における一つの完成形として語り継がれています。