藤圭子の歌唱力と伝説を語る上で欠かせないのは、圧倒的なピッチの正確さと、胸を締め付けるような独特の「唸り(うなり)」、そして言葉の端々に漂う圧倒的な情念です。
作家の五木寛之は彼女の登場を「ひとつの事件」と評し、寺山修司もその研ぎ澄まされた佇まいと歌声に強い衝撃を受けました。当時まだ10代後半であったにもかかわらず、人生の酸いも甘いも噛み分けたかのような陰影に満ちたボーカルは、聴く者の心を激しく揺さぶりました。
この天性のリズム感と憂いを秘めた声質は、まさに娘・宇多田ヒカルへと受け継がれています。宇多田ヒカル自身も、母親の歌唱スタイルや表現者としての直感力に対し、深い敬意を抱いていることをたびたび公言してきました。ジャンルこそ演歌・歌謡曲とR&B/ポップスという違いはあれど、言葉の響きをグルーヴさせ、聴き手の魂に直接届ける力は完全に共通しています。