物語のクライマックス、シシ神の首を返し、森が息を吹き返した後に交わされる二人の会話は、日本アニメ史に残る屈指の名シーンです。
「アシタカは好きだ。でも、人間を許すことはできない」
このサンの切痛な告白に対し、アシタカは静かに返します。
「それでもいい。サンは森で、私はタタラ場で暮らそう。共に生きよう。会いに行くよ。ヤックルに乗って」
安易なハッピーエンドとして「二人が結ばれて同じ場所で暮らす」結末を選ばなかった点に、本作の凄みがあります。自然と人間の対立は簡単には解決しません。サンは人間社会へ戻ることを拒み、アシタカもまたタタラ場の人々と共に新たな村づくりを行う責任を負いました。
宮崎駿監督が後年のインタビューや関係者向け資料で語った二人のその後によると、アシタカは約束通り頻繁にヤックルに乗って森へ通い、サンと逢瀬を重ねています。二人は物理的な共同生活ではなく、「異なる世界に身を置きながら、互いの尊厳を認め合って共存する」という、極めて成熟したパートナーシップを築いていきました。