なぜ「仏」の頂という神聖な漢字を使いながら、不快感を与える表情を表すようになったのでしょうか。その答えは、大乗仏教の密教における尊格「仏頂尊(ぶっちょうそん)」に由来します。
仏頂尊とは、仏の頭頂部(肉髻:にっけい)の功徳を神格化したもので、密教の仏の世界において極めて強力な力を持つ仏とされてきました。この仏頂尊の仏像や曼荼羅(まんだら)に描かれる姿は、外敵や煩悩を打ち破るための圧倒的な威厳を備えており、一切の笑みを排した極めて厳格で険しい顔つきをしています。
この人を威圧するような仏頂尊の表情が、時代を経て庶民の間で「怒ってふくれた顔」「近寄りがたい表情」の比喩として転用され、「仏頂面」という言葉が定着しました。神聖で厳粛な祈りの対象であった仏の表情が、世俗のなかで「不機嫌な顔」の代名詞へと変遷していった歴史的背景には、言葉の皮肉な面白さが隠されています。