日本の家庭における調味料棚を調査すると、東西で驚くほど明確な地域差が浮かび上がります。関東をはじめとする東日本エリアでは「中濃ソースがシェアの大半を占め、これ1本で完結させる家庭」が圧倒的多数派です。一方、関西を中心とする西日本エリアでは「中濃ソースをほとんど買わず、ウスターソースとお好み焼き・とんかつソース(濃厚ソース)を常時2本以上併用する家庭」が標準となっています。
この関東関西ソース文化の違いには、食文化の成り立ちと調味料メーカーの開発史が密接に絡んでいます。
東日本で確固たる地位を築いた「ブルドックソース」は、昭和39年(1964年)に家庭向け中濃ソースを発売しました。当時の東京を中心とする洋食・揚げ物ブームにおいて、「ウスターだと衣がベチャついてしまうが、とんかつ専用だと他の料理に使いにくい」という主婦層の悩みを解決するため、「1本で揚げ物にも炒め物にも使える万能ブレンド」として中濃ソースを市場へ定着させたのです。
対照的に、西日本の食文化は古くから「出汁(ダシ)」や粉もの(お好み焼き・たこ焼き)、そして串カツ文化と共に歩んできました。「カゴメウスターソース」や地元密着の老舗メーカー(オリバーソース、イカリソース、ヘルメスソースなど)が普及させた関西では、サラサラしたウスターソースで素材の旨味を引き締めつつ、粉ものには専用の濃厚ソースをたっぷり塗るという「適材適所の使い分け」が生活習慣として深く根付いています。そのため、どっちつかずの中濃ソースが入り込む余地が少なかったという背景があります。