だが、勝利へのあまりの有効性が、皮肉にもこの泳法の命運を分けることになる。選手たちが潜行距離を競い合うようになり、50メートルプールの大半を水中潜行で泳ぎ切る事態が多発した。観客からは「誰が泳いでいるのか見えない」「水泳競技としての観戦価値が損なわれる」という不満の声が上がり始めた。
安全上の懸念やテレビ中継での視認性を重んじた世界水泳連盟は、ついに重い腰を上げた。1988年の五輪直後、背泳ぎにおける潜行距離を制限する規制の導入を決定。試行錯誤を経て、現在運用されている15メートル制限ルールが厳格に制定されたのである。スタートおよびターン後、頭部が15メートルラインまでに水面に出なければ失格となるこのルール変更により、無制限の潜行によるアドバンテージには終止符が打たれた。