『天気の子』公開当時、ネット掲示板やSNSでは帆高の行動を巡って激しい賛否両論が巻き起こりました。「銃を乱射して警察から逃げ回る迷惑極まりない主人公」「街を水没させておいて反省がない」「倫理的にクズすぎる」といった痛烈な批判の声が上がったのも事実です。
前作『君の名は。』の主人公・立花瀧が、町の人々を災害から救うために奔走する「利他的なヒーロー」だったのに対し、帆高は東京が水没することを受け入れて少女1人を救い出す「利己的なアンチヒーロー」として描かれました。この落差こそが、観客に強烈な違和感と衝撃を与えた最大の要因です。
しかし、この批判や議論の過熱は、まさに新海誠監督が意図して仕掛けた罠でした。新海監督は各種インタビューで次のように語っています。
「『君の名は。』が多くの人に受け入れられた一方で、『災害をなかったことにするのはご都合主義だ』といった批判も受けた。それなら次回作では、教科書的な正しさを軽々と踏み越え、観客を本気で怒らせるような主人公を描こうと決めた」
大人が押し付ける「世間のルール」や「最大多数の最大幸福」に対して、傷だらけの少年が「うるせえ!」と中指を立てるような物語。帆高が浴びた批判は、彼が社会の常識を打ち破った証拠そのものであり、監督が狙い澄ました現代社会への痛快なアンチテーゼだったのです。