大橋鎭子の生涯において最大の転機となったのが、天才編集者・花森安治との遭遇だった。相容れない部分を持ちながらも深い信頼で結ばれた二人は、出版社「暮しの手帖社」を設立。伝説の生活誌『暮しの手帖』を世に送り出すことになる。花森の妥協を許さない美意識と、大橋の卓越した行動力および経営センスは見事な化学反応を起こした。
特筆すべきは、誌面に一切の企業広告を載せないという前代未聞の決断だった。スポンサーの顔色を伺わず、読者である生活者の味方であり続ける。二人が貫いたその高潔な理念は、粗悪品が溢れていた戦後社会において、消費者の権利を守る強力な砦として機能したのである。