楽曲の冒頭から展開されるのは、一般的なポップミュージックの常識を覆すほどの強烈な呪詛です。「僕は君を許さない」「君の死体に唾を吐きかける」「来世で君がどんな不幸に見舞われようと嘲笑う」といった、人間の剥き出しの憎悪がこれでもかと畳みかけられます。聴く者が思わず息を呑む怖い理由は、比喩表現の枠を突き破るほどの徹底した殺傷能力の高さにあります。
しかし、当時の音楽雑誌インタビューや本人の発言記録を丹念に辿ると、この過激な表現の根底にあるのは単なる暴力衝動や低俗な悪意ではないことが浮き彫りになります。野田洋次郎は本作の制作秘話について、自身の内面に渦巻くどうしようもない感情の濁流、相手への執着や裏切られた絶望感を一切の綺麗事なしに排出した結果生まれたと明かしています。
心理学における「反動形成」や「アンビバレンス(両価感情)」が示す通り、人間は深すぎる愛情や信頼が裏切られた際、その熱量と全く同等の憎悪を抱くことがあります。『五月の蝿』に登場する過激な言葉の数々は、相手への無関心ではなく、「そこまで激しく相手に執着し、傷つけられた」という強烈な愛情の残骸にほかなりません。だからこそ、この楽曲は単なるグロテスクなホラーソングに留まらず、聴く者の心を激しく揺さぶるエモーショナルな熱量を帯びているのです。