冥界神ハデスの武力と威厳を象徴するのが、伝説の武具「隠れ兜(クネエー)」と、冥府の門を守護する魔獣「ケルベロス」である。
ハデスの兜は、ティタノマキアの際に一つ目の巨人族キュクロプスによって鍛造され、ハデスに献上された神宝である。その能力は「着用した者の姿を神々の目からすら完全に消し去る」という絶対的な不可視化能力を持つ。ハデスはこの兜を用いて敵陣の背後に気配なく忍び寄り、クロノスの武器を奪い取って大戦勝利の決定打を作った。後世の神話では、英雄ペルセウスが怪物メドゥーサを討伐する際や、戦神アレスの暴走を止めるために女神アテナがこの兜を借用するなど、ギリシャ神話における最強のステルス装備として描かれている。
一方、三つの首と蛇の尾を持つ番犬ケルベロスは、冥界の境界であるステュクス(またはアケローン)の川向こうに座し、死者の魂が外へ逃げ出すのを防ぎ、生者が勝手に侵入するのを阻む防壁の役割を果たした。ヘラクレスの「十二の功業」の最後の難題としてケルベロスを生け捕りにするエピソードでは、ハデスの公平で器の大きな性格が克明に記録されている。
冥界に乗り込んできたヘラクレスに対し、ハデスは頭ごなしに拒絶するのではなく、「武器を使わずに素手でケルベロスを屈服させられるならば、地上へ連れて行くことを許可する。ただし、役目が終われば無傷で冥界へ返却せよ」という極めて合理的かつ寛大な条件を提示した。ヘラクレスが見事に素手で締め落として条件を達成すると、ハデスは約束通りケルベロスの連出を認めた。約束を違えず、相手の実力を正当に評価するハデスの高潔な人格が際立つ一幕である。