ここで、インターネット上で散見されるハデスに関する代表的な誤解と、神話文献が示す客観的事実を検証し、正しく整理しておこう。
誤解1:ハデスは人類を滅ぼそうとする邪神である
【真相】:ハデスが人類の滅亡を望んだことは神話上、一度もない。人類が滅びて死者が一挙に冥界へ押し寄せれば、冥界のキャパシティがパンクし秩序が崩壊することをハデス自身が最も嫌悪していた。彼は現世と来世の境界線が保たれることだけを望んでいた。
誤解2:ハデスは女性関係にだらしなく、ペルセポネを苦しめた
【真相】:ゼウスが数十人に及ぶ女神・人間の女性・少年と関係を持ったのに対し、ハデスの浮気話として伝承に残るのは妖精メンテー(ミントの語源)とニュンペーのレウケー(白ポプラの木に変身)の2例のみである。しかもメンテーの話はペルセポネと結婚する前の出来事とする異説も多く、神々の基準から見れば驚異的な貞操観念の持ち主であった。
誤解3:ハデスは冷酷非情で、誰の頼みも聞き入れない
【真相】:亡き妻エウリュディケを取り戻すために冥界を訪れた音楽家オルフェウスの竪琴の音色に心を打たれ、涙を流して妻の現世帰還を許可したエピソードは有名である。「地上に出るまで決して後ろを振り返ってはならない」という条件をオルフェウスが破ったため悲劇に終わったが、ハデス自身は一度与えた慈悲とルールを厳格に守っていた。