「癇癪」という言葉は、日常会話では「短気で怒りっぽい性格」や「子どもが駄々をこねる姿」を指して漠然と使われています。しかし精神医学や小児保健の現場において、癇癪とは「自らの感情や衝動を理性的にコントロールできなくなり、激しい怒声、号泣、暴れる、物を投げる、自傷他害などの形で爆発させる急性状態」と定義されます。
脳科学の観点から見ると、癇癪の根底にあるのは「前頭前野」と「扁桃体」の連携不全です。不安や怒り、恐怖といった原始的な情動を生み出す扁桃体が過剰に興奮した際、通常であれば理性を司る前頭前野がブレーキをかけます。ところが、脳が未発達な幼児や、過度なストレス・脳機能の特性を抱える成人の場合、扁桃体の興奮に対して前頭前野の処理能力が追いつかず、感情のブレーキが完全に焼き切れてしまいます。
ここで最も注意しなければならないのが、「わがままと癇癪の混同」です。一般的に「わがまま(意図的な要求)」は、自分の要求を通すための駆け引きとして行われるため、大人が要求を呑んだり別の魅力的な代替案を出したりすれば、比較的速やかに収束します。周囲の反応を観察しながら行動を微調整する余裕も残されています。
一方、真の癇癪は「情動の暴走」であり、本人にとっても制御不能なパニックに近い状態です。すでに要求の是非を超えて脳内が混乱に陥っているため、途中で大人が要求を受け入れたとしても、すぐには泣き止むことも暴れるのをやめることもできません。「単なる甘え」「しつけがなっていない」と決めつけて叱責を重ねると、本人は強い自己否定と恐怖に苛まれ、かえって情動の不安定化を固定化させてしまう危険があります。