グラジオラスに対して「怖い」「不吉」という印象を抱く最大の要因は、全般に付けられた代表的な花言葉である「密会」「用心」「忍び逢い」「思い出」にあります。呪いや死を連想させるような直接的な凶兆ではないものの、どこか裏切りやサスペンスの匂いを感じさせるこれらの言葉は、いったいどこから生まれたのでしょうか。
歴史の起源を紐解くと、そこには2つの決定的なエピソードが存在します。1つは古代ローマ時代、もう1つは中世から18世紀にかけてのヨーロッパ貴族社会における恋愛風俗です。
まず植物学的な学名である「Gladiolus」は、ラテン語で「小さな剣」を意味する「gladius(グラディウス)」に由来します。葉の形状が鋭く尖った両刃の剣に酷似していることから名付けられました。そして、このグラディウスを振るって命懸けの見世物闘技に身を投じていたのが、かの有名な「剣闘士(グラディエーター)」です。古代ローマでは、勝者となった剣闘士の栄誉を称えてグラジオラスの花が贈られたという記録が残っており、ここから「勝利」「武力」「堅固」という力強い花言葉が定着しました。
一方で「密会」「用心」という艶めかしくもスリリングな意味は、中世ヨーロッパの騎士や恋人たちの間で流行した「秘密の暗号」が発端となっています。人目を忍ぶ関係にあった男女が、グラジオラスの花を摘んで相手に渡す際、「咲かせている花の数」によって密会する時刻(例:3輪咲いていれば午後3時)を伝達していたという逸話です。周囲に怪しまれぬよう細心の注意を払う必要があったことから、「用心深く行動せよ」という戒めを込めて「用心」「油断大敵」という花言葉が対になって記録されました。
つまり、グラジオラスの花言葉にある「怖さ」の正体は、オカルト的な呪いではなく、「命懸けの剣闘」と「バレてはならない禁断の逢瀬」という極限状態の心理戦から生まれたものだったのです。