秋本氏の代名詞とも言えるのが、こち亀休載ゼロ伝説です。1976年42号の連載開始から2016年42号の完結まで、一度も雑誌の進行を止めることなく走り抜けた実績は、ギネス世界記録にも認定された週刊少年ジャンプ連載記録として漫画史に刻まれています。全200巻、通算1,960話という数字は、後続の作家たちが容易に到達できない金字塔です。
この前人未到の記録を支えたのが、業界内で都市伝説のように語り継がれる秋本治のストック数です。一般的な週刊連載作家が「今週載る原稿」を毎週命がけで仕上げている中、秋本氏は常に前倒しでスケジュールを管理していました。集英社関係者の証言や本人の回顧録によると、通常運転時でも3〜5話分、オリンピックイヤーや長期休暇の前には最大で10話から半年分近くのストックを手元に用意していた時期すら存在します。
単に原稿の描き溜めが多かっただけではありません。秋本氏が主宰するプロダクション「アトリエびーだま」では、昭和の時代からアシスタントへの厚生年金加入、ボーナス支給、完全週休2日制を導入していました。自らを厳しく律するだけでなく、現場スタッフの生活環境を整えることで生産性を最大化させるという、現代のホワイト企業の先駆けとなる組織運営を個人スタジオで実現していた点も、なんJ民から「ぐうの音も出ない名経営者」と賞賛される要因となっています。