多くの読者が最も固唾を呑んで見守ったのが、斉木楠雄 照橋心美 恋愛関係の結末です。「神に愛された完璧美少女」として周囲の男たちをことごとく「おっふ(感嘆の声)」させてきた照橋心美。彼女がなぜ、一見地味で目立たない楠雄にここまで深く執着したのか。その動機は緻密な心理描写によって裏打ちされています。
照橋心美が楠雄を好きな理由は、最初は極めて単純な自尊心の問題でした。自分を見ても唯一「おっふ」しない楠雄の態度が許せず、なんとかして彼を屈服させたいという意地から関わりが始まります。しかし、楠雄が超能力を使って密かに仕掛ける配慮や、打算のない行動の端々に触れるうち、その感情は「プライドの満足」から「心からの純愛」へと変貌を遂げていきました。相手の好みに合わせて自分を取り繕うのではなく、楠雄の前でだけは完璧な偶像(アイドル)としての仮面を脱ぎ捨て、泥臭い本音をさらけ出してしまう自分に気づいたのです。
物語の終盤、修学旅行や文化祭といった学校行事を経る中で、2人の距離感は劇的な進化を遂げます。楠雄自身、照橋の圧倒的な美貌と神がかり的な幸運体質を「最も関わりたくない脅威」として徹底的に避けていましたが、彼女が「完璧な美少女」であり続けるために払っている血のにじむような努力とプロ意識を深く理解し、次第に一人の人間として確固たる敬意を抱くようになります。
原作のクライマックスにおいて、楠雄が心の中で漏らした照橋に対する独白は、決定的な好意の告白とまではいかないものの、彼女を特別な存在として明確に認めた瞬間としてファンの間で神格化されています。完全に恋人同士になるという結末をあえて描かずとも、互いが誰よりも深く精神的に通じ合っていることを示唆する幕引きは、本作が提示した極めて品格ある恋愛の解答でした。
また、夢原知予 海藤瞬の恋の行方も見逃せません。当初は楠雄に惚れていた夢原ですが、海藤のふとした男らしさに触れて恋に落ちます。乙女チックな妄想と空回りを繰り返しながらも、海藤に対して一途なアプローチを続ける夢原と、中二病の鎧に隠れて恋愛に極度にウブな海藤のやり取りは、学園ものとしての瑞々しい清涼剤として機能しました。