一代で世界企業を築き上げた永守氏の原動力は、数々の著作や講演で語り継がれた独自の経営哲学・名言録でした。
- 「一番以外は全部ビリ」
- 「情熱・熱意・執念」
- 「知的ハードワーキング」
- 「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」
- 「未達は悪、赤字は犯罪」
昭和から平成にかけて、これらの言葉は猛烈なベンチャー精神の象徴としてビジネスパーソンを鼓舞しました。経営難に陥った買収先企業へ乗り込み、従業員の意識改革を断行してV字回復を成し遂げる永守マジックの源泉こそ、この絶対的な執念でした。
しかし、企業規模が2兆円を超え、法令遵守とコーポレートガバナンスが厳格に問われる現代において、この哲学は深刻な歪みを生み出す劇薬へと変貌しました。その決定的な破綻を証明したのが、ニデックの不適切会計問題を調査した第三者委員会報告書の生々しい記録です。
報告書には、永守氏が最高財務責任者(CFO)や執行役員らに対し、「無責任野郎ばかりそろいやがって」と激昂し、達成困難な業績目標を強烈に迫っていた実態が克明に記されていました。上流からの凄まじい威圧に晒された現場幹部たちは、創業者の逆鱗に触れることを恐れるあまり、心理的安全性を完全に喪失。結果として、数値の計上時期をずらすなどの不適切な会計処理や、無理な利益調整に手を染めざるを得ない土壌が形成されていったのです。
草創期のメンバーは週刊誌の取材に対し、「昔から大風呂敷を広げ、我々も死に物狂いで応じてきた。それが成功体験となり、会社が巨大化しても同じやり方を押し通してしまった」と語っています。「すぐやる、必ずやる」という突破力のスローガンは、いつしか組織の上意下達を絶対視し、異論や直言を封殺する「恐怖の呪縛」へと変質してしまったといえます。