ここでメディア編集部として明確に是正しておかなければならないのは、「パヨク」という言葉が持つ過剰なインフレーション(希釈化)の罠です。
当初は「セキュリティ企業幹部の不祥事」という具体的な事件と過激な活動家をピンポイントで指す言葉でした。しかし現在では、防衛費増額に慎重な姿勢を示した学者、少子化対策として選択的夫婦別姓の議論を提示した保守系議員、あるいは環境問題やジェンダー平等について客観的なデータを紹介した一般ユーザーにまで、反射的に「パヨク」のレッテルが貼られる事態が頻発しています。
情報社会学の研究機関が実施した国内SNSの言論動向調査によれば、政治的な投稿を日常的に行い、激しい左右対立の応酬を繰り広げているアカウントは、ネット利用人口全体のわずか1%〜3%未満に過ぎないと推計されています。圧倒的多数の97%以上のサイレントマジョリティは、極端な政治闘争に辟易し、距離を置いているのが実態です。
ところがSNSのアルゴリズムは、怒りや対立を煽る過激なコンテンツほどインプレッション(表示回数)を獲得しやすい構造を持っています。このため、極端な言説を展開する一握りの「ネトウヨ」と「パヨク」の罵り合いがタイムラインの最前面に押し出され、あたかも日本社会全体が激しく左右に二極化しているかのような錯覚を作り出しているのです。
「パヨク」という言葉を安易に振り回す側もまた、敵対者を思考停止で一括りにして自らを省みない、ネトウヨ的な認知バイアスに囚われているケースが少なくありません。言葉の出自がどれほど正当な批判から生まれたものであっても、乱用されたスラングは物事の本質を曇らせるノイズへと変貌します。