緑寿庵清水の作業場には、現代の製造業では当たり前の「マニュアル」や「温度計」が存在しない。職人はただ自らの感覚を研ぎ澄まし、熱せられた釜と向き合い続ける。素材の持つ水分量や砂糖の結晶化スピードは毎日異なるため、数値化されたレシピでは均一な品質を保つことができないからだ。
とりわけ、果汁や抹茶、酒などの素材を金平糖に組み込む作業は至難の業とされる。酸味や油分、アルコール分が含まれると砂糖は固まりにくくなり、角が立ちにくくなるという性質があるからだ。しかし同店では、長年の研究と職人技によって、本来なら結晶化を阻害する生果汁や日本酒、ブランデー、果てはワインや珈琲までを見事に金平糖へと昇華させている。これは世界の製菓史においても稀有な技術的快挙と言える。