「月のあかり」がカラオケの定番曲にとどまらず、アコースティックギターの弾き語り愛好家たちに愛され続ける理由は、その緻密で情緒的なコードプログレッションにあります。キーは原曲でAマイナー(Am)を基調としており、哀愁を帯びた短調の響きが日本人の琴線にダイレクトに訴えかけます。
Aメロはシンプルながらも洗練されたマイナーコードの進行(Am → Dm7 → G7 → Cmaj7 → F → Bm7-5 → E7)をベースにしており、いわゆる「枯葉進行」や「ツー・ファイブ」の変形を取り入れたジャジーで都会的なハーモニーが展開されます。特にBm7-5からE7へとドミナントモーションする瞬間の緊張感が、主人公の胸を締め付ける葛藤を見事に音像化しています。
サビの展開では、切なさが一気に解放されるメロディの跳躍と、桑名正博の卓越した歌唱力が融合します。桑名のボーカルは、ハスキーでありながら豊かな中低音の倍音を含み、ファルセットへと移行する瞬間に漂う色気は唯一無二と評されてきました。単に声を張るのではなく、言葉の語尾をわずかに抜くようなフェイクやブレスのコントロールが、この曲の「別れのやりきれなさ」を何倍にも増幅させているのです。