診察室を訪れる患者の多くが「親族に同じ病気の人はいない」「最近の激務や人間関係のストレスが原因ではないか」と口にします。疫学データに基づくと、尋常性白斑における第一親等(親や兄弟)への遺伝の確率は約5〜7%程度にとどまります。血友病やハンチントン病のような単一遺伝子疾患ではなく、複数の感受性遺伝子(HLA型や免疫調整遺伝子群)の組み合わせに環境因子が重なって初めて発病する「多因子疾患」であるため、過度な遺伝の不安を抱え込む必要はありません。
一方で、精神的ストレスが疾患活動性に及ぼす影響は無視できません。強いストレス負荷がかかると交感神経末端から神経伝達物質(ノルアドレナリンやニューロペプチドY)が過剰に放出され、微小循環の虚血と酸化ストレスを誘発します。これにより細胞膜の過酸化脂質が増大し、メラノサイトが脆弱化。そこへ自己免疫反応が重なることで、白斑の急速な拡大を招くという負のスパイラルが臨床研究で実証されています。
さらに物理的要因として警戒しなければならないのが「ケブネル現象」です。これは、正常に見える皮膚であっても、引っかき傷、靴擦れ、下着の強いゴム圧迫、メガネの鼻パッドによる摩擦、カミソリ負けといった機械的刺激を受けた部位から、新たに白斑が誘発・拡大する現象を指します。進行を止める方法として、皮膚科専門医が「肌をゴシゴシ洗わない」「刺激の少ない衣服を選ぶ」ことを徹底指導するのは、この皮膚微小外傷による抗原提示の活性化を防ぐための極めて合理的な防衛策です。