劇中で明かされるハクの本名「ニギハヤミコハクヌシ」は、単なるファンタジーの造語ではなく、古代日本の神道観と自然信仰が色濃く反映された多層的なネーミングです。スタジオジブリの公式設定や絵コンテ集、制作関係者の証言によると、この名前は主に「ニギハヤミ」と「コハクヌシ」の2つの要素に分解して解釈されます。
前半の「ニギハヤミ」は、『日本書紀』や『古事記』に登場する天津神(あまつかみ)の一柱である「饒速日命(ニギハヤヒノミコト)」がモチーフになっていると指摘されています。饒速日命は、神武天皇の東征以前に大和の地を治めていたとされる高貴な神であり、空を飛ぶ天磐船(あめのいわふね)に乗って降臨したという伝説を持ちます。白竜として自在に空を舞うハクのビジュアルと神格の高さは、まさにこの古代神の系譜を引くものです。
後半の「コハクヌシ」は、千尋の旧居近くを流れていた「コハク川」の主(ヌシ)であることを示しています。漢字表記としては、公式資料の文脈から一般に「饒速水琥珀主」あるいは「賑早見琥珀主」と表記されます。「賑(ニギ)」は生命力が満ち溢れて賑わう様子、「早見(ハヤミ)」は水の流れの速さ、「琥珀(コハク)」は透き通った川底の美しさ、そして「主(ヌシ)」はそこに宿る水神を意味しています。つまり、ハクの正体は「清らかで豊かな流れを司る川の神」そのものでした。