地球上で最も過酷な静水圧環境といえば深海です。世界最深部とされるマリアナ海溝・チャレンジャー海淵(水深約10,920メートル)では、深海における水圧の大きさは約1,100気圧(約110 MPa)に達します。これは1平方センチメートルあたりに約1.1トンの重量がのしかかる計算であり、通常の潜水艇であれば一瞬で紙くずのように押しつぶされる領域です。
深海生物がこのような超高圧下で生きていられる理由は、体内の水分圧と外部の水圧が完全に釣り合う「静水圧平衡」を保っているためです。体内に気体を含んだ空洞を持たず、細胞レベルで内外の圧力を等しくすることで、組織の破壊を防いでいます。
静水圧平衡の概念は宇宙物理学や気象学でも応用されており、星の自重による重力収縮と内部の熱・ガス圧力が釣り合って恒星の形が維持される状態などを説明する基礎理論となっています。