なぜ右方移動が起きる?酸素ヘモグロビン解離曲線の本質とボーア効果

なぜ右方移動が起きる?酸素ヘモグロビン解離曲線の本質とボーア効果

なぜ右方移動が起きる?酸素ヘモグロビン解離曲線の本質とボーア効果について専門的な視点から解説いたします。最新の情報をチェックしてください。

救命救急センターやICU(集中治療室)に配属された新人看護師や研修医が、臨床の洗礼として最初に突きつけられるのが「SpO2モニターの数値に騙されるな」という先輩ナースや指導医からの厳しい指摘です。

日本呼吸器学会や集中治療医学会の学術集会でも度々取り上げられる典型的な事象が、重篤なアシドーシスとアルカローシスが交錯する病態でのモニタリングの落とし穴です。ある大学病院の高度救命救急センターに勤務する認定看護師は、専門誌の手記で次のような臨床観察を明かしています。

「敗血症性ショックで運び込まれた患者さんのモニター上で、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)が92%を示していました。数値だけを見れば『少し低めだが酸素投与で様子を見られる範囲』と判断しがちです。しかし、血液ガス分析を行ったところ、動脈血pHは7.15という危機的な代謝性アシドーシスに傾いていました。解離曲線が極端に右方移動していたため、動脈血酸素分圧(PaO2)は実際には65mmHg近くまで保たれていたにもかかわらず、飽和度が見かけ上低く出ていたのです。逆に言えば、末梢組織への酸素供給という観点では極限まで振り絞られており、根本原因である循環不全を今すぐ是正しなければ心停止に至る瀬戸際でした」

さらに現場を悩ませるのが、反対の酸素ヘモグロビン解離曲線の左方移動がもたらす悲劇です。大量出血の患者に対して、長期間冷蔵保存された濃厚赤血球製剤を短時間で急速輸血した際、保存血内で2,3-DPGが著しく枯渇していることがあります。2,3-DPGが低下した赤血球は酸素をガッチリと抱え込んで離さないため、曲線は左方へ大きくシフトします。モニター上のSpO2は100%に張り付いているにもかかわらず、患者の脳や腎臓の細胞には一向に酸素が受け渡されず、組織酸素欠乏症(組織低酸素症)から多臓器不全を招くリスクが潜んでいるのです。

中村 さくら
著者

中村 さくら

エンタメ・カルチャー業界の深掘り取材を得意とし、現場のリアルな声をお伝えします。