ゲームデザインの観点から掘り下げると、このセリフには「スライムを倒さない理由」をプレイヤーへ提示するという極めて論理的な役割がありました。
初代ドラクエからドラクエ3に至るまで、モンスターとの遭遇はイコール「戦闘」を意味していました。しかし『DQ4』では、町やダンジョンの要所に友好的なモンスターNPCを配置することで、冒険者に対して重要なヒントを与える情報屋としての役割を担わせるようになります。「話しかけられるモンスター」のシンボルとして選ばれたのが、最も認知度の高いスライムでした。
この試みは、次回作である1992年の『ドラゴンクエストV 天空の花嫁』における「モンスターを仲間にするシステム」へと直結します。『DQ5』では「スラリン」をはじめとするスライム族が正式なパーティメンバーとして旅に加わり、青年時代やすごろく場などの会話イベントでも「ぼく わるい スライムじゃないよ」のバリエーションが随所に登場しました。「敵として屠るだけの存在」から「心を通わせる相棒」へ――その大転換の扉を開けた鍵こそが、DQ4で発せられたあの小さな一言だったわけです。