しかし、制度や設備がどれほど整っても、現場の現実は手放しの賞賛ばかりではありません。現場の当事者や支援者への徹底した取材データからは、理念の美談とは裏腹な痛切な摩擦が浮かび上がってきます。
都内の公立小学校で特別支援コーディネーターを務めるベテラン教員は、重い口調でこう証言します。
「インクルーシブ教育の旗印のもと、通常学級で障害のあるお子さんを受け入れる体制自体は前進しました。しかし、現場の加配教員や支援員の配置予算は全く追いついていません。35人のクラスで重度の発達障害を持つ児童のパニックに対応しながら、他の子どもたちの授業進行を一人で背負い込む担任教員が次々とメンタルダウンを起こしています。『共に学ぶ』という理念が、現場の善意と自己犠牲のうえにだけ成り立っているのが2026年の偽らざる現状です」
また、就労支援の現場でも構造的な歪みが露呈しています。厚生労働省の最新データによると、障害福祉サービスである「就労継続支援B型事業所」における全国平均工賃は月額1万7,000円〜1万8,000円台にとどまっており、自立した生活水準を保障するニィリエの第7原則には遠く及んでいません。「地域で普通に暮らす」ことを目指してグループホームに入居したものの、親からの金銭的仕送りが途絶えた途端に家賃や光熱費が払えなくなる「8050問題・親亡き後問題」は、全国の自治体で深刻なSOSとして噴出しています。
さらに、地域住民とのあつれきも後を絶ちません。閑静な住宅街にグループホームが新設される際、近隣住民から「資産価値が下がる」「徘徊されたら危険だ」といった激しい反対運動が起きるケースは今なお全国各地で報告されています。物理的な段差をなくすことより、人々の意識の中に居座り続ける「心理的な壁」を取り払うことのほうが、はるかに険しい道のりであることを現場の数字と声が証明しています。