数ある丸ビルの人気レストランの中で、なぜゴドノフ東京は閉店を選ばざるを得なかったのでしょうか。ネット上では「世界情勢の影響で営業が困難になったのではないか」「経営難に陥ったのではないか」といった様々な憶測が飛び交いました。しかし、外食産業のビジネスモデルと丸の内のテナント契約事情を精査すると、そこには複合的な要因が連鎖した現実的な閉店経緯が浮かび上がってきます。
第1の決定打となったのは、商業施設における定期建物賃貸借契約の満了とフロアリニューアルです。丸ビルを含む大手ディベロッパーの商業施設では、一般的に3年〜5年ごとの定期借家契約が結ばれており、契約更新時には売上目標の達成度やビル全体のMD(マーチャンダイジング=テナント構成)方針の見直しが行われます。丸ビルは開業20周年にあたる大規模リニューアルプロジェクトを進めており、5階飲食フロアの導線や店舗ラインナップの刷新が図られた時期と重なりました。
第2の要因は、コロナ禍による丸の内エリアの生活様式の構造変化です。丸の内エリアは在宅勤務・リモートワークの定着によって平日ランチのオフィス需要や夜の大規模な宴席需要が激減しました。夜の平均客単価が7,000円〜12,000円というアッパーミドル層をターゲットにしていた同店にとって、ディナー帯の団体利用や接待需要の蒸発は大きな打撃となりました。
第3に、国際情勢の激変に伴う食材調達コストとブランド管理の難しさです。2026年以降のロシア・ウクライナ情勢を受け、ロシア産食材や直行便の物流ルートが遮断され、ビーツやハーブ、キャビアなどの輸入調達コストが急激に跳ね上がりました。さらに、直接的な排斥運動はなかったものの、ロシアという看板を掲げること自体に対する世間の繊細な空気感も、運営元のポートフォリオ見直しに影響を与えたと考えられます。