代々木ゼミナールの公民科講師・畠山創氏が解説するように、人類の知的巨人たちはこの問いに対し、すでに何通りもの決定的な解答を用意してきました。中でも西洋哲学を代表する「カントの義務論」と「功利主義」のアプローチは、なぜ人を殺してはいけないのか 哲学の領域において二大支柱を形成しています。
イマヌエル・カントは、人間は理性を持つ自律的な存在であり、決して他者の欲望を満たすための「手段」として扱ってはならず、「目的」そのものとして尊重されるべきだと説きました(定言命法)。誰かを自分の都合や怨恨で殺害することは、相手の尊厳を単なる道具に貶める行為であり、理性が命じる普遍的道徳法則に真っ向から反します。
一方、ジェレミ・ベンサムやJ.S.ミルが提唱した功利主義は、「最大多数の最大幸福」を判断基準とします。もし社会が「理由次第では殺人を容認する」という例外を一度でも認めれば、社会全体に「いつ誰に殺されるかわからない」という計り知れない恐怖と疑心暗鬼が蔓延します。社会全体の効用(幸福の総量)を著しく損なうため、功利主義の計算においても殺人は徹底的に禁止されなければならないのです。