日本の犯罪史において最も有名な合成写真といえば、1968年(昭和43年)12月10日に発生した「三億円事件」の犯人像です。白バイ隊員のヘルメットを被り、鋭い眼光でこちらを見据えるあの顔写真は、全国に数百万枚単位で配布・掲示され、日本中の国民に強烈な印象を与えました。
長年、あの写真は「複数の目撃証言を基にパーツを精巧に貼り合わせた科学的コラージュ」だと信じられてきました。しかし、事件から年月を経て明らかになった内情は、捜査本部の焦りが生んだ極めて危うい作成経緯でした。実際のベースとなったのは、事件直後に容疑線上に浮上し、直後に自宅で青酸カリにより自死を遂げた「少年S(当時19歳)」の運転免許証写真そのものだったのです。
当時の捜査員の手記や内部証言によると、警察は少年Sの生前写真を入手した後、目撃証言にあった白バイ用ヘルメットのパーツを切り貼りし、輪郭や陰影にわずかな修正を加えただけで「モンタージュ写真」として全国指名手配に踏み切りました。純粋な目撃記憶の集積ではなく、「特定の容疑者の顔写真」をほぼそのまま流用した合成写真だったという事実が、後の捜査を決定的に迷走させる元凶となります。
警察庁や警視庁がこの写真を大々的に公開した結果、全国から「この男を見た」という通報が11万件以上も殺到しました。しかし、その大半は「公開された写真の顔」に似た無関係の人物ばかりであり、実際の犯行現場で白バイに乗っていた真犯人の特徴とは乖離していく皮肉な結果を招くことになりました。