芸者コントを語る上で最大の関心事となるのが、「どこまでが計算された台本で、どこからがアドリブだったのか」という点です。関係者の証言や当時の制作秘話によると、その真相は「骨組みとなる設定と最初の一言だけが決まっており、中盤の展開はほぼ二人の阿吽の呼吸による即興劇」という驚くべきものでした。
志村けんさんは本来、セットの小道具の配置から音楽のタイミング、役者の立ち位置まで1センチ単位で指示を出す完璧主義者として知られていました。ザ・ドリフターズ時代から培われた「計算し尽くされた笑い」を信条としていた志村さんが、唯一完全に手綱を緩め、予測不能なハプニングを楽しんでいた相手こそが柄本明さんでした。
コントが始まると、柄本さんが虚無的な目で見つめ返したり、台本にない不可解なリアクションを仕掛けます。すると志村さんが堪えきれずに本気で吹き出し、白塗りの顔を覆って笑ってしまう場面がそのまま放送されました。志村さんが笑えば笑うほど柄本さんはさらに無表情を極め、突如として強烈な張り手を志村さんの頬に見舞う。一瞬の静寂の後、二人が何事もなかったかのように会話を再開するそのリズムは、徹底した信頼関係がなければ成立しない、高度な心理戦そのものでした。