上白石萌歌を語る上で欠かせないのが、「adieu(アデュー)」名義による先鋭的な音楽活動です。このプロジェクトは2017年、行定勲監督の映画『ナラタージュ』の同名主題歌(野田洋次郎作詞・作曲)において、「都内高校に通う17才の女子高生」という素性を伏せたプロファイルでスタートしました。
当時、その圧倒的な透明感と切なさを帯びた歌唱力は「時を止める歌声」と評され、音楽関係者の間で大きな話題となりました。2019年秋に公式にadieuの正体が上白石萌歌であることが明かされた後も、単なる「女優の余技」とは一線を画す本格的な音楽制作が一貫して続けられています。
adieuの楽曲は、Yaffle、小袋成彬、柴田聡子、塩入冬湖(FINLANDS)、君島大空など、日本のインディー/オルタナティブシーンの最先端を走るクリエイター陣が楽曲提供やプロデュースを手掛けています。ネット上の音楽リスナーや専門誌のレビューでは、以下の要素が極めて高く評価されています。
- ダイナミクスの繊細さ:息の成分(ブレス)を豊かに含んだウィスパーボイスでありながら、芯の通った中低域のピッチの正確さ。
- 物語性の高い表現力:役者として培った感情のグラデーションを、過度なビブラートに頼らず声色の質感だけで描き切る歌唱技術。
- 徹底したアートワークの美学:MVやジャケット写真に至るまで、儚さと凛とした強さが同居するシネマティックなクリエイティブ。
「adieuとしての私は、普段の自分とも女優としての役柄とも違う、心の深層にある景色を解放する場所」と本人がインタビューで述べている通り、独自の音響世界は2026年現在も多くのコアな音楽ファンを魅了し続けています。