格闘漫画ファンのみならず、現代のネットカルチャー全体に深く刻まれている「炭酸抜きコーラ」のやり取り。その原典は、板垣恵介氏の連載初期における代表作『グラップラー刃牙』単行本第10巻(第82話「補給」)に遡ります。完全版コミックスや電子書籍でも語り継がれる屈指の名シークエンスです。
舞台は東京ドーム地下闘技場。世界最高峰の武道家・格闘家たちが生死を賭けて集う「最大トーナメント」の開会直前、主人公・範馬刃牙の控え室に持ち込まれたのは、およそアスリートの管理食とは思えないメニューの山でした。大盛りのタッパーに詰められた白米、大量の梅干し、山盛りのバナナ、そして無造作に置かれた「炭酸抜きコーラ」です。
この異様な献立を扉の隙間から覗き見たドームの設備作業員たちが放ったのが、今なお語り継がれる一連のセリフでした。
「オイオイオイ」「阪神ファンよりたち悪ィや」「死ぬわアイツ」と嘲笑交じりに騒ぐ同僚に対し、メガネをかけたひとりの古株作業員が静かに呟きます。
「ほう 炭酸抜きコーラですか… たいしたものですね」
さらに彼は解説を続けます。「炭酸を抜くことによって胃への負担を減らし、効率よく糖分とエネルギーを摂取できる。これを知っているのは相当な手練れだ」という趣旨の発言を残し、一転して刃牙のプロフェッショナリズムを読者に印象づけました。名もなき裏方キャラクターが放った玄人然とした分析と、独特のシュールな空気感が見事に噛み合い、連載から30年以上が経過した現在でも「バキの炭酸抜きコーラ」は色褪せない伝説として語り継がれています。