「虫歯や歯周病を絶対に防ぎたい」という強い動機から、1日に4回も5回も力任せに磨いてしまう人がいます。しかし、歯の表面を覆うエナメル質の厚さはわずか1〜2ミリ程度しかありません。過度な摩擦が加わり続けると、この強固なエナメル質が徐々に削れ、内部の柔らかい象牙質が露出してしまいます。
象牙質には神経へとつながる無数の微細な管(象牙細管)が通っているため、冷たい水や風、甘いものなどの刺激が直接神経に伝わり、激しい痛みを伴う知覚過敏が引き起こされます。「虫歯でもないのに水がキーンとしみる」という歯磨きのしすぎによる代表的な症状は、物理的な摩耗によって神経のバリアが剥がれ落ちた危険信号です。
さらに深刻なのが、歯と歯茎の境目に強い横磨きの力が加わることで生じる「くさび状欠損(WSD)」です。歯の根元が削れてえぐれた状態になり、放置すると神経の露出や歯の破折を招きます。削れた部分を修復するくさび状欠損の治療には歯科用プラスチック(コンポジットレジン)の充填などが必要になりますが、根本的な磨き方を改めない限り再発を繰り返すリスクがあります。
また、過剰な刺激を受けた歯茎は炎症を起こして徐々に後退していきます。これが歯茎下がりの主な原因です。骨と強固に結合している歯肉組織は一度破壊されると、歯肉退縮は自然には戻らないという生体的な特徴を持っています。露出した歯の根元(象牙質)はエナメル質よりも酸や摩耗に弱く、虫歯リスクが跳ね上がるという悪循環に陥ります。