木製の引き戸を開けると、使い込まれたカウンターとパイプ椅子が迎えてくれる。壁一面に貼られた短冊メニューの黄ばみ具合すら、年月を重ねた調味料のようだ。昭和の面影を色濃く残す大衆食堂が、効率とスピードを最優先してきた飲食業のトレンドに対する鮮烈なアンチテーゼとして再評価されている。
合理化が進む外食産業において、セントラルキッチンを使わず、毎朝市場から仕入れた素材を店主自らが包丁で捌く光景は今や貴重だ。手際よく盛られる白米の湯気、しっかりと油の切れた揚げ物の音。無駄を削ぎ落とした手仕事の集積が、訪れる者の五感を容赦なく刺激する。