平安末期、わずか7歳でこの地に預けられたのが源義経(牛若丸)である。悲運の武将として日本人の記憶に深く刻まれた男は、昼は仏道修行に励み、夜は深山で剣術の手ほどきを受けたという。かつて放送されて大ヒットを記録したNHK大河ドラマ『義経』でも印象的に描写された通り、彼が飛翔したと伝わる杉の木立や背比べ石は、今も境内の各所にひっそりと残されている。
伝承によれば、幼き彼の師を務めたのは人間ではない。鞍馬山の奥深くに棲まう大天狗、すなわち鞍馬天狗(僧正坊)である。山伏の姿をしたこの伝説上の存在は、単なる童話の怪異にとどまらず、権力に屈しない圧倒的な武力と智恵の象徴として長く語り継がれてきた。義経がこの地で培った鋭敏な身体感覚と戦術眼が、後に平氏を追い詰めた八艘飛びの源流となったことは疑いようもない。